冷凍


口に入れた瞬間にふっくらとしたエビの弾力と、すり身と豆腐の柔らかな舌触り、
そして程良い塩加減で調理されたエビの味わいが広がっていく。
時間が経ってもおいしく仕上げられた一品は、弁当のおかずにうってつけだ。
2014年春に家庭用冷凍食品(現在は市販用冷凍食品に名称変更)事業に参入した極洋は、
事業の核となる主力商品を育てるべく、2019年に『ふんわりえびカツ』を開発した。
それまで市販用冷凍食品をほとんど開発してこなかった極洋において、いかにして新商品が開発されたのか。
そこには二人の社員の葛藤と努力があった。

研究
KUNII
  • NAME:
    國井
  • OCCUPATION:
    研究開発
  • DEPARTMENT:
    商品開発本部 商品開発部 市販商品開発課
  • JOINED YEAR:
    2014年 入社
*内容は取材当時のものです。
*『ふんわりえびカツ』の開発時は極洋食品(株)塩釜工場の生産管理部製品開発課で勤務。
営業
KAWASHIMA
  • NAME:
    川嶋
  • OCCUPATION:
    (販売
  • DEPARTMENT:
    食品事業本部 市販食品第1部 市販食品第2課
  • JOINED YEAR:
    2006年 入社
*内容は取材当時のものです。
 
1
背景
社運を賭一大

2018年秋、商品開発部では次年度の新商品発売に向け、プロジェクトが動き始めていた。市販用冷凍食品事業に参入してから約4年。いくつもの商品を世に送り出してきたものの、「極洋と言えばこれ」と呼ばれるような看板商品は、まだ育っていなかった。水産物を中心とした「総合食品会社」を標榜する極洋にとって、市販用冷凍食品を通じてその存在を世に広く知ってもらうことは、重要なテーマの一つ。そこで目指したのが、弁当のおかずとして利用できる商品の開発だった。國井は研究・開発担当として、川嶋は市場のニーズを汲み取り、商品を売り込む販売担当として、それぞれプロジェクトに加わっていた。

極洋は漁ろう会社としてスタートした歴史があり、水産物の取り扱いには強みを持っていました。そうした背景から「エビを使用し、極洋独自の主力商品をつくろう」という話が出たのです。

近年は、時短調理が可能な商品が求められており、市場において大きなニーズがあります。特にお弁当をつくる親御さんにとって、手間のかからないおかずは重宝されているのです。そうしたお弁当のおかずとして利用してもらう商品として、えびカツの開発に着手しました。

ターゲットとなるのは、日常的に弁当を食べる機会がある子どもたちと、それらをつくる親世代。時間が経過してもおいしく味わえるように、『ふんわり食感』を出すことがコンセプトとなった。魚のすり身に豆腐を混ぜることで、生地に柔らかな食感を生み出し、同時にエビの『プリプリ感』も引き出す。そんな商品を目指して開発を進める。開発室での試作は順調に進んでいき、量産化の段階へと入った。ところが、ここで事態は一変する。工場の大型機械で試験的に生産を行ったところ、開発室で上手くいっていた味や食感の再現ができなくなったのだ。

2
開発
発と生産を埋

開発室と工場では、そもそも製造過程が異なる。開発室では「開発」が目的となるため小規模で試作を行うが、工場では「大量生産」が求められるため大型の機械を利用する。そのため、えびカツの開発においても、食材の温度管理や火の通り具合などに差異が生じてしまっていた。

工場でできあがった試作品を食べてみると、水分量が多くベチャベチャした食感になっており、『ふんわり』とは真逆でした。開発室での試作と配合は同じなのに、なぜこんなにも仕上がりが違うのか。頭を抱えましたが、いくつか思い当たる節がありました。例えば大型の機械になったことで、調理時間や温度にバラつきが出てしまったり、食材の混ざり具合にも差があったりしたのです。開発室での試作とできる限りギャップをなくすために、時間や温度、機械の回転数などをすべて数値化し、改良に取り組みました。

開発室と工場の調理条件を照らし合わせながら、幾度となく微調整を繰り返していく。つくるたびに数値を記録し、味や食感を確かめた。時には本社にいる商品開発担当や、販売担当である川嶋も試食に加わり、さまざまな議論を繰り広げながら『ふんわり』を追求した。そうした過程の中で、國井は対面でのコミュニケーションの重要性に気づくようになる。

市販用冷凍食品の商品開発は本社が主導しますが、量産化するための生産ラインへの落とし込みは工場で行われます。それぞれが離れた場所で仕事をしていると、認識や考え方に齟齬が生じてしまいがちです。メールや電話だけでは、お互いの意図が伝わらず、話が噛み合わないこともありました。どれくらい柔らかい食感にしたいのか、どれくらいの塩加減が良いのか。商品開発においては、言葉だけで意思の疎通を図ることは難しいのです。だからこそ、試食のフィードバックをもらう際や意見交換を行う時には、できる限り対面でコミュニケーションを取るようにしました。現在、私は本社勤務ですが、重要な打ち合わせの時は工場に足を運びます。開発・生産者の目線と、企画を行う本社の目線、両方を持てるようになったことは、大きな成長だと感じます。

数えきれないほどの試作を経て、商品が完成した。こだわり抜いた生地の『ふんわり食感』も、エビの『プリプリ感』も同時に実現。商品名は『ふんわりえびカツ』に決まり、2019年9月の販売開始に向け、いよいよ生産がスタートした。

3
営業
地道の先

スーパーやドラッグストアなど、小売店への営業を担ったのが市販食品第1部のメンバーだ。極洋では数名の販売担当が全国の名だたる量販店をカバーし、市場の開拓に汗を流している。川嶋は約20社の得意先に、『ふんわりえびカツ』の売り込みを行った。

競合メーカーと比べると、当社は市販用冷凍食品市場に参入して日が浅いため、お取引いただくのは簡単ではありません。例えばスーパーであれば、現在売場にある商品を削り、新しく『ふんわりえびカツ』を置いてもらうことになるため、品質の高さやコストメリットをお伝えできなければ、採用していただけないのです。他社商品との食べ比べを行ってもらったり、売場での陳列方法を提案したりと、色々と試行錯誤しました。

しかし、2019年9月に販売を開始したものの、売上は思うように伸びていかなかった。弁当用冷凍食品の市場はある程度成熟しており、新規参入が難しいという側面があったのだ。それでも事業の将来を担う商品だけに、簡単に諦めるわけにはいかない。厳しい条件の中でいかに販売ルートを開拓していくか。そこが販売担当の腕の見せどころ。川嶋は採用を断られようとも、地道な営業活動を続けていった。

得意先とのコミュニケーションを続けていると、ふとしたタイミングで売場に空きが出たりして、商品を採用していただけるケースがあります。そこから品質が評価され、『ふんわりえびカツ』も少しずつではありますが、導入されるようになりました。また、得意先の担当者と接する中で、「最近はこんな商品が売れている」「こんな味がトレンドになっている」といった生の情報も手に入れることができるようになったのです。そうした情報を会社に持ち帰り、新たな商品の開発や改良に活かすことができるのは、販売担当としての醍醐味だと思います。

実際に、川嶋ら販売担当が得た情報をもとに、パッケージのリニューアルや味つけの改良が行われている。弁当惣菜としての用途が伝わるよう、弁当箱に入れた写真をパッケージに載せたり、弁当の主菜として楽しめるよう味つけを濃くしたりと、改良を重ねているのだ。近年はコロナ禍による原材料価格の高騰もあり、従来通りの生産や価格の維持が困難な状況にある。そうした中で消費者のニーズを捉え、手に取ってもらえる商品をつくり続けるためには、一層の企業努力が欠かせない。

4
今後の展望
事業の

その後、川嶋を中心とした販売担当の努力が実り、『ふんわりえびカツ』の売上は徐々に伸長していき、現在では多くのスーパーで目にする商品に。会社の知名度向上にも、少なからず貢献しており、「極洋と言えば『ふんわりえびカツ』」と呼ばれるような主力商品へと成長している。

改良を重ねて着実に前へと進んでいると思いますが、市場全体を見渡せば越えるべき壁は無数にあります。この『ふんわりえびカツ』をより良くすることはもちろんのこと、新たな主力商品を生み出すことも、私に求められている役割です。最近はマーケティングなどの業務にも興味が出てきました。極洋はやる気さえあれば背中を押してくれる風土があるので、新たな業務にも挑戦したいと思っています。

市販用冷凍食品業界において、極洋はまだまだ認知度が高いとは言えません。だからこそ、自分たちの努力次第で市場を切り拓いていけるので、非常にやりがいのある仕事だと考えています。これからも積極的に開発・提案を行い、将来的にはどこのスーパーに行っても極洋の商品が買えるようにできたら嬉しいです。

ある日川嶋は、ふと立ち寄った近所のスーパーで、『ふんわりえびカツ』が買い物カゴに入っていくのを見た。その瞬間、小さな喜びとともにある想いが込み上げてくるのを感じた。「極洋の商品が売場を彩る日は、想像以上に遠くはないのかも知れない」と。